バレエ/マノン
マノンとデ グリュの波潤に満ちた愛— マクミランが描いたドラマテイツク バレエの金字塔マクミラン振付の三幕七場のバレエ。波澗に富んだ筋立てと、登場人物の 感情を濃厚に語る振付、時代 絵卷のような重厚な美術によって、ロイヤル バレエの代表的レパートリーとしてばかりでなく、二十世紀のドラマティックバレエの象徴的名作として、世界 的に人気が高い。
舞台は十八世紀初めのフランス。マノンは、地方出身の神学生デ グリュと恋に落ちる。 だが彼女には野心家の兄レスコーがおり、その手引きで老富豪の愛人となる。愛を捨てて豪奢な生活を選んだマノンを デグリュは懸命に説得し、自分のもとに戻らせようとするが、 逃亡の元手を作ろうとレスコーが仕組んだいかさま賭博が発覚。
レスコーは射殺され、マノンは娼婦として捕らえられる。
デグリュに付き添われ、北アメリカの流刑地に送られてきた マノンは、すぐに好色な看守に目をつけられる。激昂したデグリュが看守を刺し殺し、逃げ 出した恋人たちは昼夜も知れない沼地に迷い込む。
マノンはそこで過去の妄想に苛まれながら、恋人の腕のなかで息絶えるのだった。
芸術監督だったマクミランは、層の厚いスターたちを総動員してこの大作を作り 上げた。その中心にあるのは、 もちろん「自堕落で貪欲な内面を、天使のよぅに清らかな美貌で包んだ」ヒロインである。アベ プレヴォの原作小説は、十九世紀末にマスネ、プッチーニによりオペラ化されているが、この バレエの音楽は、同名のオペラ以外のマスネの音楽を多数編曲 したもの。とりわけ「エレジー」が要所で編成を変えて繰り返 されドラマを堅固に組み上げる役割を果たしている。
主人公に関心を絞り込むところ から生まれるマクミラン作品では、やはり恋人たちのバ ド ドゥが みどころ。マノンとデ グリュの愛と運命の変転の節目を形作って、 大きな魅力がある。第一幕「出会い」では、デ・グリュの誠実な人柄がラインの さに 結晶したかのような導入から、 気に惹かれあう二人の情熱を、滞空時間の長いリフトを印象的に用いて描く。
続く「寝室」では結ば れたばかりの二人の歓喜が、多様な回転技からほとばしる。
第二幕では、自分のもとに戻るゆう懇願するデ・グリュの、倫理観で迫る強さと彼女への愛を断ち切れずにすがりつく弱さの入り混じったひたむきな思いに、あるい は、ブレスレットをめぐる悶着で行き場なく絡みつく二人の感情に 胸を打たれる。
最終幕の沼地での死の場面は、 激しいリフトと落下を駆使した壮 絶で生々しい振付が、そのまま圧 倒的なクライマックスとなる。